研究概要 |
視覚系では、抽出した特徴を群化して、その物体の属性を知覚すると考えられる。このための具体的な皮質メカニズムとして、刺激文脈依存性を基にした特徴群化が各階層ごとに行われていく、という仮説を検討した。V1複雑型細胞が、古典的受容野外部の刺激に依存して反応を大きく変えることは良く知られている(e.g.Kapadia, et al.,J.Neurosci,1995)。この文脈依存性は、V1では共線的な輸郭を、V2では面を単位とした群化に主要な役割を果たしていると考えられる。本研究では、この仮説を心理物理学的・計算論的に検証している。 平成15年度は、主観的輪郭で形成される線分の見かけの傾斜が、線分の知覚分割に依存するかどうかを、心理物理実験によって明らかにした。最も単純な傾斜錯視は、2本の線分が交差した場合に観察される。2本の線分に適当な幅をもたせておき、それぞれの線分に異なる両眼視差を与える。線分の交差部分は、手前に置かれた線分の一部として知覚される。すなわち、交差部分がどちらの線分に属するか(知覚分割)は、このようにして決めることができる。線分が実輪郭で与えられる場合は、見かけの線分傾斜は知覚分割に依存しないことが判っている。また、線分を主観的輪郭で与えても、傾斜錯視が観察されることが知られている。ここでは、線分を主観的輪郭で形成し、線分の見かけの傾斜が知覚分割に依存するかどうかを検討した。 実験では、テスト刺激と参照刺激を同時に短時間だけ呈示した。被験者は、テスト刺激と参照刺激の方位を強制二者択一方式により比較する。この結果からpsychometric関数を求め、テスト刺激中の線分の見かけの傾斜を算出した。そして、算出した見かけの傾斜が知覚分割に依存するかどうかを、統計的検定によって求めた。この結果、錯視量は知覚分割に依存しないことが判った。このことから、(1)V1が傾斜錯視にとって支配的な役割を果たしていること、(2)傾斜知覚のための群化もV1で行われていること、が示唆された。
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