本研究は1ニューロン前駆細胞の増殖能を培養系で長期間維持すること、2ニューロン前駆細胞を神経幹細胞へと先祖帰りさせることが可能かどうか検証すること、の2点を目的としている。 1 我々は小脳顆粒細胞ニューロン・前駆細胞(GCPs)を材料として研究を進めている。GCPsの調製法はHattenらにより開発されたが、この方法では未分化な細胞と分化を開始した細胞を分離することはできない。そこで我々は未分化GCPsを選択的に調製する手法を開発した。幼弱マウス小脳よりHattenらの手法に従ってGCPsを調製、次に抗マウス・マクロファージ抗体を用いた抗マクロファージimmunopanningにより、モノサイト・マクロファージ系細胞を除去し、次に未分化GCPsは表面にHNK-1抗原を発現していることから、抗HNK-1抗体を用いた抗HNK-1 immunopanningにより、未分化GCPsを選択的に単離した。この未分化GCPsを増殖因子の存在下に培養しても大部分の細胞は細胞周期を脱して最終分化を開始した。これは混入している分化開始後GCPsから増殖停止シグナルが出ているためか、増殖能を維持する因子が欠けているためであると考えられる。現在FACSを用いてさらに純度の高い未分化GCPs標品の調製を試みると同時に、GCPsの増殖能を長時間維持する因子の探索を続けている。 2 未分化GCPsをSonic hedgehog (Shh)とBone morphogenetic protein(BMP)の共存下に培養すると、一部の細胞がアストロサイトのマーカーであるGFAPを発現するようになることを見出した。これはニューロンに分化するべくコミットしたニューロン前駆細胞がアストロサイトにも分化しうる可塑性を有していることを示唆する重要な知見である。現在GCPsが神経幹細胞にまで先祖帰りするかどうかの検討を続けている。
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