本研究は1ニューロン前駆細胞の増殖能を培養系で長期間維持すること、2ニューロン前駆細胞を神経幹細胞へと先祖帰りさせることが可能かどうか検証すること、の2点を目的とした。 1.我々はマウス小脳顆粒細胞ニューロン・前駆細胞(GCPs)を材料として研究を進め、未分化GCPsを選択的に調製する手法の開発に成功したが、未分化GCPsを増殖因子の存在下に培養しても大部分の細胞は細胞周期を脱して最終分化を開始することが明らかになった。混入している分化開始後GCPsから増殖停止シグナルが出ている可能性があると考えられたので、さらに純度の高い未分化GCPs標品の調製を試み、純度99%の標品を得ることに成功した。この標品も、Sonic hedgehog(Shh)という強力な増殖因子存在下でも殆どの前駆細胞が細胞周期を脱し、ニューロンに分化することが明らかになった。 2未分化GCPsをShhとBone morphogenetic protein(BMP)の共存下に培養すると、一部の細胞がアストロサイトのマーカーであるGFAPを発現するようになることを見出した。これはニューロンに分化するべくコミットしたニューロン前駆細胞がアストロサイトにも分化しうる可塑性を有していることを示唆する重要な知見であるので、未分化GCPsが神経幹細胞にまで先祖帰りするかどうかの検討を続けている。また幼弱マウス小脳から単離した細胞の中には上皮細胞増殖因子(EGF)刺激で盛んに増殖するGFAP弱陽性細胞が存在すること、この細胞は神経幹細胞のマーカーのネスチン、放射状グリア(radial glia)のマーカーのBLBPなども発現していることを見出した。
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