精神遅滞とαサラセミアを呈するATRX症候群の原因遺伝子がX染色体上に存在することが明らかになり、そのエクソン2変異が中等度の知能低下を引き起こすことが報告された。そこでハーバード大学En Li博士、別府秀幸博士との共同研究によりATRX遺伝子エクソン2変異マウスを作製し、本マウスを行動解析に適するように129系から6世代までC57BL6系にバッククロス(N6)した。N6系マウスを用い、平成15-16年の2年間で以下に示す研究成果を得ることができた。 1)ATRX変異マウスは形態異常がなく、正常に発育したが野生型より体重が低い傾向があった。 2)ATRX遺伝子エクソン2の変異箇所にLacZ遺伝子を挿入した。そこで中枢神経系でのβgal発現を検討したところ大脳皮質、小脳、海馬体で発現が確認された。次に、ATRXのC末端部を認識する抗体で免疫染色を行なったところ、野生型に比べATRX変異マウスでは大脳皮質、小脳、海馬体でその発現低下を認めた。 3)ATRX変異マウスmRNA発現の結果、エクソン2でmRNA発現がストップするものとエクソン2でスプライシングするmRNAが存在することが判明した。従ってATRXのC末端を認識する抗体を用いて脳組織のウエスタンブロットを行うと変異マウスは野生型に比べ約50%の蛋白発現低下を認めた。 4)行動解析を行なった。その結果、ATRX変異マウスは野生型に比べて(1)12時間周期と24時間周期の明暗箱における行動量は、暗状態において有意な行動量増加を示した。(2)モーリス水迷路試験において、実験開始日から10日目まで有意な目標場所到達時間の遅延が認められた。(3)回転ロッドによる掴り試験では、有意な回転数増加に対する掴り時間短縮結果が得られた。 以上、ATRX遺伝子エクソン2遺伝子変異マウスはヒトのATRXエクソン2変異と共通する学習・行動異常が生じていることを明らかにし、その病因として大脳皮質、海馬体、小脳のATRX蛋白発現低下が関連する可能性を示すことができた。
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