神経細胞の発火パタンはその細胞の持っているイオンチャネルによって決定される。チャネルの機能を決定する因子はチャネルの密度と性質であるが、神経細胞はどのようにこれらの因子を調節して正常な機能を実現しているのかは明らかになっていない。本研究代表者らは、A型K+電流の密度と性質が発達過程における調節機構を調べるために、パッチクランプ法と半定量的単一細胞RT-PCR法を用いて、線条体コリン作動性ニューロンにおけるA型電流とKv4.2mRNAの量的関係を明らかにし、その関係は転写と翻訳機構のうえ、チャネル蛋白質とmRNAの分解を考慮すれば、高い相関係数で記述できることを示した。このモデルに従えば、チャネルの密度調節の研究は転写・翻訳と分解のそれぞれの過程のレートとそれを制御する因子を明らかにすることになる。そこで本研究では、チャネル蛋白質とmRNA分解の機構を調べるために、それぞれのレートを決定し、その発達段階依存性を調べた。 ラット線条体コリン作動性介在ニューロンを用いた。本研究代表者らのこれまでの研究によって、この細胞は強いA型電流を発現していることと、そのチャネルのアルファサブユニットをコードしているのはKv4.2であることが明らかになっている。A型電流の分解のレートを調べるために、線条体スライスを数日間生存させたのちに、電流を記録する技術の開発を行った。試行錯誤の結果、生後一ヶ月の動物の線条体を35oCで、電流の減衰なしに数日間生存させることに成功した。この技術を用いて、生後2週令の動物のスライスでは、蛋白合成阻害剤を投与すると、A型電流が1日で半減することが分かった。しかし、生後3週令のスライスでは、A電流が半減するには約2日間掛かることがわかった。一方、生後2週令の動物のスライスに転写阻害剤を与えると、約1日でKv4.2mRNAの量が半減することが明らかになった。本研究で確立したスライス標本は今後のK+チャネルの密度制御を研究する基盤を提供するものと考える。 また、本研究によって、コリン作動性ニューロンにおける遅延整流性電流をコードする候補遺伝子も明らかにされた。
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