研究概要 |
本研究は,脊椎動物の脳内でグリア細胞と神経細胞が行っている相互作用をグリア細胞の側から見たものである。神経細胞は生存のために非常に多くのエネルギーを要求する。このために必要な酸素とグルコースは,当然脳内の毛細血管により供給されると考えられてきた。ゼブラフィッシュは小型で,単純なつくりの脳を持つ下等脊椎動物である。脳内の血管分布を調べたところ脳内の三分の一ほどにも相当する場所で,ほとんど血管の走行が見られないことが判明した。このような場所は,神経細胞が少ないのではなく,逆に数から言えば血管走行領域よりも多数の細胞が存在している領域である。なぜ,この場所には血管がないのであろうか。ここにある神経細胞はどのようにしてエネルギーの補給を受けているのであろうか。調べていくと,血管走行領域にはアストロサイトが多く,他の脊椎動物と同様にこのグリア細胞が毛細血管からグルコースの輸送を行っていると想定できた。しかし,血管走行が少ない領域においては,毛細血管のみならずアストロサイトもほとんど見られなかった。その代わり,この領域においてはエッペンダイマルグリアといわれる大型のグリア細胞が多数存在し,脳室表面に張り付いて,グルコースを吸収し,長い突起をこの領域の神経細胞にまきつかせていることが想像された。ここには血管はほとんど存在せず,脳室からグルコースと酸素がこの大型グリア細胞の突起を経由して,神経細胞に供給されているのではないかと考えることが出来た。エッペンダイマルグリアは進化的にもアストロサイトより古く,高等脊椎動物には少ししか存在しないが,脳が小さく相対的に脳室表面積が広い下等脊椎動物ではこのグリア細胞が大きな役割を果たしていると考えられる。
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