研究概要 |
古典的条件付けによるにおいの嫌悪学習は、においと電撃の対提示により成立する。殊に生存戦略として嗅覚に依存している幼若ラットでは30分間のトレーニングにより、提示されたにおいを避ける行動を示すようになる。これまでに嗅球内への薬物注入により、においの嫌悪学習が促進されることから、嗅球内シナプスの可塑性がこの学習に関与する可能性が示唆された。生化学的手法による,嗅球内CREB(cyclic AMP response-element binding protein)の活性化過程の検索ならびに電気生理学的に嗅球におけるシナプス可塑性の証明を試みた。 1)嗅球内のCREB合成を阻害する目的で、CREB antisense ODNを嗅球内に注入すると、長期記憶のみが選択的に阻害された。においと電撃の対提示トレーニングを施した動物の嗅球ではリン酸化CREBの増加は1〜2時間にピークとなり、4時間後まで持続した。 2)CREBの上流にあると考えられているBDNFのantisense ODNおよびBDNFの受容体TrkBの阻害剤の注入は学習成立を阻害した。 3)嗅覚二次ニューロンである僧帽細胞の軸索である外側嗅索を電気刺激し顆粒細胞層で記録されたフィールド電位のスロープは、100Hz 1秒のテタヌス刺激を5回加えると有意な長期増強現象(LTP)を示した。 4)体性感覚刺激の対提示によっておこる遠心性ノルアドレナリン線維の活性化を模すためにノルアドレナリンを投与すると3回のテタヌス刺激でLTPを誘導でき、これはβ受容体を介することが明らかとなった。 以上の結果をまとめるとにおいの嫌悪学習のシナプスメカニズムとして、嗅球の僧帽細胞から顆粒細胞へのシナプス可塑性がBDNF-CREBの系を介して成立すると考えられた。
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