平成16年度の大きな成果は、大脳皮質における神経細胞間gap junctionの3次元的分布を初めて明らかにしたことである。これまで私が行ってきた電子顕微鏡によるギャップ結合の同定は、直接的なもっとも確実な方法であるが、得られた局所的所見を全体像の中でとらえることができなかった。そこで神経細胞特異的なギャップ結合蛋白であるCx36とPVに対する抗体を用いた蛍光二重免疫染色によりギャップ結合の3次元的分布を知る試みに前年度から着手したが、今年度は電子顕微鏡二重染色によって一層直接的な証拠を示すことに成功し、方法論の妥当性を確立した。これにより共焦点レーザー顕微鏡を用いてギャップ結合の分布を組織レベルで3次元的に広くとらえることが初めて実現した。解析を進めた結果、従来生理学的には同定できなかった樹状突起の遠位部(最長350ミクロン)にもギャップ結合が存在しており、一つのPVニューロンあたり50個から80個ものギャップ結合が樹状突起に沿ってならび、それぞれの場所で他のPVニューロンとの間に結合を形成していた。結合しているニューロンをトレースしていくと、水平方向にどこまでも連結し、さらにカラムに沿った縦方向にも密な結合が認められた。個々のPVニューロンにおける分布の検討から、細胞体から半径100ないし200ミクロンの距離にある樹状突起上にも相当数のgap junctionが存在することを明らかにした。平行して、このネットワークの広がりが機能的に持つ意義を明らかにするべく、マックスプランク脳研究所に出張し、Galuske博士とともにネコ一次視覚野における光学的記録の追加実験と研究打合せを実施し、同時にTennigkeit博士ともスライスパッチ実験に関する研究討議を行った。光学的記録を実施した一次視覚野2/3層にある全PVニューロンを脳表面から見た二次元的マップを作成し、密に分布する細胞体のそれぞれが持つ大きな樹状突起野は互いに大幅な重なりを持つことを示した。上述のサイズ(半径200ミクロン)の円を各細胞体から描くと、ギャップ結合性ネットワークは、様々な方位選択性カラムを横断しながら連続的かつに重畳的に広がっていくことが示唆された。以上より大脳皮質ではPV含有型GABAニューロンが非常に密でかつ大きな広がりを持つギャップ結合性樹状突起ネットワークを作っており、リズムや同期性に関連しうる構造が組織構築の中に驚くほどの密度と広がりを持ってはじめから用意されていることが明らかとなった。
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