平成15年度は以下のような研究を進めた。 1)新たに開発した、カルシウム蛍光指示薬カルシウム蛍光指示薬の分散的負荷法を用いて4-10個の歯状回顆粒細胞を選択的に染色した。ラット海馬スライス標本を用い、カルシウム蛍光指示薬(Oregon Green BAPTA-1-AM)を顆粒細胞の軸索線維束である苔状線維に3時間圧力投与した。正立型顕微鏡に取り付けた高速冷却CCDカメラで染色された顆粒細胞の細胞内カルシウム変動を計測した。顆粒細胞の自発バースト時のカルシウム変動を記録し、逆行性電気刺激で発生する活動電位に伴うカルシウム変動と対照させることにより、蛍光変化率および蛍光減弱時定数などから顆粒細胞の発火回数、発火タイミングを同定した。この結果から自発同期バースト活動を複数の顆粒細胞の発火パターンとして記述した。自発的同期発火中の単一顆粒細胞の発火回数は、均一ではなく、0、1、2回発火など多様な発火パターンを示した。自発発火活動が進行するにつれ、顆粒細胞間の同期性が亢進し、また発火潜時も短縮していった。こうした多様な発火様式および同期性の亢進は本研究によって初めて明らかにされた。この結果は現在投稿準備中である。 2)歯状回における介在ニューロンと歯状回顆粒細胞の相互関係について、パッチクランプ・ホールセル記録法により検討した。非NMDA型グルタミン酸受容体の阻害薬であるCNQXを海馬スライス標本の潅流液中に投与し作用させると、歯状回顆粒細胞においてGABA性の自発的シナプス後電位の頻度が上昇した。この頻度上昇はCNQXのグルタミン酸受容体阻害作用と無関係に介在ニューロンを脱分極させる機序によることがわかった。歯状回局所ネットワークにおいて、介在ニューロン網への生体因子の作用に起因する顆粒細胞集団への脱分極性のGABA性ドライブが重要なのかもしれない。上記研究結果はNeuroscience Letters誌に投稿し受理された。
|