GABAは、神経系における主要な抑制性伝達物質として神経の電位活動の制御に加えて、覚醒、睡眠、概日リズムや学習、運動、感覚情報処理など脳の機能を構築する上で中心的役割を果たしている。また、GABA合成酵素であるグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD;GAD65;GAD67の2型存在)は、I型糖尿病との関連が報告されている。味覚情報処理におけるGABAの役割、あるいはI型糖尿病の発症におけるGAD分子の役割を明らかにする目的で、GAD65ノックアウトマウスを解析した。 基本味、混合味に対する嗜好性について、二ビン法によりGAD65ノックアウトマウスと野生型マウスとを比較検討した。四基本味に対する嗜好性では、両群に有意の差は認められなかった。ショ糖と塩酸キニーネの混合味に対する嗜好性では、GAD65ノックアウトマウスで溶液摂取量の低下が観察された。また、野生型マウスで観察されるミダゾラム投与後のショ糖摂取量の増加が、GAD65ノックアウトマウスでみられなかった。これらの結果は、混合味のような複雑な味の情報処理にGABAが関与していることを示唆する。ヒトI型糖尿病のモデル動物、NODマウスでは、糖尿病の発症初期に他の自己抗体に先んじて抗GAD65抗体と抗GAD67抗体が検出されることから、糖尿病の発症にGAD分子が関与している可能性が指摘されている。GAD65ノックアウトマウスをNODマウスに戻し交配することによりGAD65を欠損したNODマウスを作成し、糖尿病の発症について検討した。GAD65を欠損したNODマウスとGAD65を保持するNODマウスとには、有意差が認められなかった。この結果は、GAD65分子単独では、糖尿病の発症に関与していない可能性を示唆した。 これらの結果等をさらに詳細に検討するために、テトラサイクリンシステムを利用した誘導型GAD67ノックアウトマウス用のコンストラクトの作成をすすめている。
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