研究概要 |
本年度は、我々が以前より取り組んできた課題において成果をあげることができた。すなわち、仮現運動をヒトが認知する神経機構の時間的推移を詳細に調べることができた。我々が用いる刺激では、ある物体が数秒間出現し消失すると同時に位置を変えて再び出現する。このときそれらの間に実際に動きはないにもかかわらず、ヒトはなめらに物体が位置を移動した(運動した)と知覚する。脳磁図でこのような認知過程にかかわる神経活動の時間的推移を検討するには、物体が単純に出現、消失するときの反応と運動知覚に伴う反応を厳密に区別できるかに関わる。我々は、ランダムドットパターンを用いてこれを解決した。このパターンを提示し、その後ある距離だけ平行移動して提示すると、距離が短いときは仮現運動を知覚するが、長くなると単に二つのパターンが連続して出現した(ブリンキング)と知覚する。このよう距離により知覚は大きく変化するにもかかわわらず、距離により刺激に物理的な違いはない。すなわち、輝度、コントラスト、空間周波数はまったく変わらない。にもかかわらず反応が距離により変化したとすれば、それは知覚の違いを反映しているに違いない。実際に脳磁図反応を記録すると、刺激後100ms付近から2つのピークをもって反応に大きな違いが出現した。しかし、両反応ともその潜時はまったく同じであった。これらの結果は、運動の知覚とブリンキングの知覚というまったく異なる知覚は、連続的階層的な神経機構によるのでなく、2つの拮抗する神経回路が感覚入力の初期から同時に働き出し、それらの競合過程で、最終的な知覚、認知にいたる可能性を示唆する(Kubota, et al.Neurosci.Res.2004,48,111-118)。
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