シナプス結合の標的特異性は神経回路形成の最も重要な基盤をなす。本研究はシナプス形成期の神経系でシナプス結合の特異性がどのような機構によって成り立つのか明らかにすることを最終目的としている。研究材料としては比較的単純な神経回路であるために細胞レベルの解析が容易なショウジョウバエ胚の体壁筋系の神経筋結合を用いている。これまでに、我々はシナプス標的認識の過程で、シナプス前細胞とシナプス後細胞が互いに糸状突起で接触を繰り返し、正しい相手との接触があった時に糸状突起がクラスターを形成することを明らかにした。本年度はこのクラスター形成がシナプス結合の確立にどのような役割を果たしているのかという点に注目した。糸状突起の形成や運動に関与すると考えられているEzrinのドミナントネガティブ型蛋白質をGal4/UAS systemを用いて単一の筋肉で発現させたところ、その筋肉では糸状突起のクラスターは形成されず、数本の糸状突起が神経軸索の糸状突起と散在性の接触部位を形成することがわかった、さらに発生が進むと軸索突起はシナプスを作らずに筋肉上を任意の方向に伸びていくことがわかった。このことから、糸状突起のクラスター形成がシナプス形成に必要であることがわかった。次に、シナプス形成の初期にシナプス部に集合することがわかっているPSD95/Dlgのドミナントネガティブ型を特定の筋肉で発現させたところ、この蛋白質を発現している筋肉でも糸状突起のクラスターが形成され、軸索と標的筋肉の接着がしばらく保たれることがわかった。ところがその後この接着は不安定になり、軸索はいったん退縮した後再び伸長して別の筋肉に異所性シナプスを形成した。このことから、PDS95/Dlgはクラスター形成後のシナプス構造蛋白質の保持に重要であることが示唆された。
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