平成15〜17年度に得られた成果を以下に記す。 1.サブスタンスP(SP)含有する食道の知覚神経がキャプサイシン感受性を有することから、SPレセプターであるNK1RとSP含有神経の関係を調べた。その結果、NK1R陽性神経細胞は上部食道に最も多く出現し、全NK1R陽性神経細胞の約77%がコリン作動性、約23%が一酸化窒素(NO)作動性であった。また、下部食道に出現した多くのNK1R陽性神経細胞がNOS陽性反応を示した。このことから、SP含有知覚性神経が下部食道の多くのNOS含有神経細胞にシナプスを形成し、さらにそれらの神経終末が下部食道括約筋を支配することによって、括約筋の抑制的効果に関与するものと推測される。 2.迷走神経がどの種類の食道神経細胞を支配しているのかを調べるために、ラット頸部迷走神経を電気刺激後、Fos抗体を用いて免疫組織化学的に検索を行った。その結果、食道に出現するFos陽性神経細胞は食道の全神経細胞の約10%で、口側から胃側にかけて増加する傾向があり、下部食道における出現頻度が最も高かった。また、食道の全Fos陽性神経細胞の約85%が一酸化窒素合成酵素(NOS)抗体に陽性反応を示すことが判った。以上の結果から、迷走神経は優位に食道のNO作動性神経を支配することが示唆される。また、下部食道においてNO含有のFos陽性神経細胞が最も高い出現頻度を示したことから、迷走神経-下部食道NO含有神経細胞-下部食道括約筋という一連の下部食道括約筋の抑制反射機構の存在が推測される。 3.食道におけるTRPV1含有神経の分布とその起源を調べるために、逆行性神経トレーサーであるFast blue(FB)を用いた注入実験とTRPV1抗体を用いた免疫組織化学を組み合わせ、検索を行った。食道には多数のTRPV1陽性神経線維が認められたが、陽性神経細胞は出現しなかった。またこれらの大多数がSPあるいはCGRP陽性反応を示した。FBをラット下部食道壁に注入後、FB標識神経細胞は脊髄神経節(DRG)のC1からL2まで認められ、特にT5からT12に多数の標識細胞が見られた。DRGに認められたFB標識細胞の大多数はTRPV1陽性で、これらの細胞のほとんどはSPあるいはCGRP陽性反応を示した。これらの結果から、食道に分布するTRPV1/SPあるいはTRPV1/CGRPは、DRG(T5-T12)に由来すると考えられる。
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