これまでラットの海馬体から聴覚連合野への出力投射路を網羅的に解析してきた。本研究では、嗅周皮質(35野、36野)から聴覚連合皮質への投射、および腹側の聴覚連合野(Te3)からの投射の様態について、PHA-L順行性標識法を用いて解剖学的に解析した。主に皮質深部(V-VI層)に注入した6例について以下の所見を得た。 1)聴覚野の領域区分はZillesとWree従い、二次聴覚野(Te1)、尾側聴覚連合野(Te2c)、背側聴覚連合野(Te2d)、腹側聴覚連合野(Te3v)、吻側聴覚連合野(Te3r)に区分した。 2)腹側聴覚連合野(Te3v)への注入では、聴覚連合野全体と嗅周皮質(36野および35野)への投射があったが、一次聴覚野(Te1)には投射はほとんど見られなかった。 3)聴覚連合野から36野の背側やTe26に及んだ注入では、上記の領域に加えて一次聴覚野と嗅後皮質に弱い投射が確認された。 4)36野の腹側に及ぶ注入では、聴覚領域に留まらず、一次視覚野及び視覚連合野に広く投射が確認された。また、外側嗅内野への弱い投射も同時に確認された。 5)腹側聴覚連合野(Te3v)からの投射は、聴覚連合野内部と嗅周皮質領域に限局されていた。特にTe2c、36野への投射は強く、Te3vとこれらの領域との強い結合を示唆している。 今回の実験では、注入部位は主に皮質深部(V-VI層)であったので、今後は皮質表層(II-III層)からの投射及び、視床を介して聴覚野へいたる経路の投射についても解析が必要である。
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