海馬体で情報処理された記憶信号が聴覚連合野にフィードバックされる経路には、CA1、海馬台を通り、前海馬台、傍海馬台、脳梁膨大後皮質を経由する複数の皮質性投射路がある。 本年度はラット前海馬台内の連合線維の投射様式についてWGA-HRPおよびPHA-L注入法を用いて調べ、以下のことを明らかにした。 1)前海馬台の連合性および交連性結合細胞の大半はII層に分布しており、これより少ない数がV層に分布したが、III層やVI層には殆ど認められなかった。IV層すなわち内顆粒細胞層は、前海馬台ではかなり不明瞭である。 2)前海馬台ではII層細胞が両側性にI層深部、II層、V層に投射する。II層には短距離投射と長距離投射の二種類の細胞群が存在する。短距離投射(SR)細胞は背側または腹側方向におよそ2mm投射し、全体として前海馬台全長の約3分の1をつないでいる。長距離投射(LR)細胞は腹側優位に前海馬台の背腹方向2分の1以上の長さを投射している。SR細胞は前海馬台の至る所に分布しているが、最近位部(海馬台寄り)には少ない。LR細胞は前海馬台最背側部の顆粒性脳梁膨大後皮質と接する領域、および前海馬台中隔側半の最遠位部に帯状に分布し、前海馬台遠位端に隣接する部分にも一部散在している。 3)交連性投射についても連合性投射に見られる特徴は認められるが、量的に少ない。さらに、深層(主にV層)細胞は同側性にV層に投射し、I層やIII層にも少量投射するが、II層には投射しない。深層細胞の連合性投射もまた前海馬台長軸方向に広がっているが、II層細胞の投射に比べると量、範囲とも明らかに小規模であった 今後、海馬から聴覚連合野への帰還投射の全体を解明するため、嗅内野から嗅周皮質への投射、視床を介して聴覚連合野へ帰還する経路などの投射様式をしらべていく必要がある。
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