[1]加齢に伴い、大脳皮質・辺縁系を主体とした神経変性を比較的若齢期より自然発症するSAMP10マウス(P10)を用い、その脳変性の遺伝的背景を明らかにすべく、量的形質遺伝子座(QTL)解析を進めた。寿命末期まで脳萎縮を呈さないSAMR1マウスとP10とを交配して得た雑種第2世代(F_2)325匹を16ヵ月齢まで飼育し、脳萎縮度を測定した後、DNAを抽出した。F_2の中から、萎縮度の高い方、低い方よりそれぞれ20個体ずつを選び、マイクロサテライトマーカーを用いてシングルマーカー解析を行ったところ、第2番と第15番染色体上に2ヵ所のQTLが示唆された。そこで、第15番染色体上のマーカー7種を用いてF_2からランダム抽出した117個体についてインターバルマッピングを行った結果、セントロメアより54.5cMと57.9cMの3.4cMの間にLRSスコア12.1のQTLを見出した。 [2]ユビキチン・プロテアソーム系は細胞内タンパク質分解機構の中核をなし、その障害は種々の神経変性疾患における異常タンパク質凝集に関わる。P10のニューロンに加齢に伴って出現するユビキチン化封入体に関する形態学的および生化学的検討を行い、R1やC57BLマウス(B6)と比較した。その結果、封入体の分布は、扁桃体・視床下部・海馬・内嗅領皮質・前帯状皮質などに密であった。封入体はR1とB6では加齢とともに緩やかに増加したのに対し、P10では急速かつ著明に増加した。大脳辺縁系関連組織のプロテアソーム活性は、R1では加齢に伴って緩やかに低下したのに対し、P10では急速かつ著明に低下した。一方、辺縁系非関連組織では、P10・R1ともに加齢変化を示さなかった。このように、マウスの脳では辺縁系特異的に、加齢に伴うプロテアソーム活性の低下によってユビキチン化タンパク質がニューロン内に蓄積して封入体を形成することを示した。
|