研究概要 |
臨界期の仔ネコに片眼遮断を行うと、視覚野のニューロンは遮断しておいた眼に対する光反応性を失い、眼優位性(ocular dominance, OD)は非遮断眼へ移行する(normal OD shift)。しかし、視覚刺激に対する方位選択性は消失しない。一方、片眼遮断中に、視覚皮質内にPKA拮抗薬を持続注入すると、normal OD shiftの発現は妨害され正常なOD分布が観察される一方で、方位選択性は消失する(Beaverら2001年)。これらの事実は眼優位性と方向選択性の形成に関わる分子メカニズムが異なること、また、遮蔽眼から皮質ニューロンへの入力が方向選択性の形成を妨害する可能性を示唆している。しかし、このような可塑的変化の方向性は、網膜-視床からのボトムアップ的入力のみならず、視覚皮質ニューロン活動も重要な要因であることが指摘されている。そこで、本研究は、片眼遮断+PKA拮抗薬皮質注入によって引き起こされる方位選択性の消失に皮質ニューロンの活動が関与するか否かを明らかするために、片眼遮断中、PKA拮抗薬とともにムシモール(GABA_A受容体作動薬)を皮質内持続注入することで視覚皮質ニューロン活動を抑制した時の方位選択性の変化を検討した。その結果、これらの実験操作によって、先行研究で報告されているような眼優位性の遮断眼への移行(reverse OD shift)が観察される一方で、刺激方位選択性は消失しないことが示された。以上より、片眼遮断+PKA拮抗薬皮質注入によって引き起こされる方位選択性の可塑的変化にも視覚皮質ニューロンの活動が重要であることが明らかになった。
|