本研究の目的は、神経可塑性の獲得過程において、チャネルに付加されるシアル酸が、チャネル輸送や活性の変化、さらにはその後の応答シグナルにどの様に関わるのかを、個体・細胞・分子レベルで解析することである。本申請者は、神経の可塑的変化に連動して発現変動を示すシアル酸転移酵素を見つけた。この酵素は、電位依存性ナトリウムチャネル・カリウムチャネル等に付加されるポリシアル酸の幹のシアル酸付加に関与する酵素である。本研究では、本酵素によるシアル酸付加の有無がチャネル動態に与える影響を解析する。 平成15年度は、このシアル酸転移酵素(ST3Gal IV)・コンディショナルノックアウトマウスの作製に着手した。現在までにtargeting vectorの構築を行い、マウスC57Bl/6J由来ES細胞にtargeting vectorを電気穿孔法により導入し、ESクローンを得た。このES細胞を直接マウス胚盤胞に入れ、偽妊娠マウスに移植してキメラマウスを16匹得ることに成功し、現在交配中である。 一方で、野生型とノックアウトマウスにおけるチャネル輸送・チャネル活性・細胞内へのシグナル応答を観察する際、細胞膜やシナプスの膜動態を考える必要がある。その中でも特に、細胞内シグナル伝達のホットスポットと考えられているラフトとシナプスの関係に注目した。成熟マウス脳から大脳皮質・海馬を取り出し、TritonX-100難溶性膜画分を抽出し密度勾配超遠心を行った。その結果、膜画分を2層に分離することができた。幾つかのマーカーにより、上層がraft画分、下層がシナプス(post-synaptic density)画分であることを確認した。加えて、脳内の電位依存性ナトリウムチャネルが、ラフトとPSDそれぞれの画分に分布することがわかった。平成16年度、ノックアウトマウスが完成した際には、シアル酸付加の有無が、電位依存性ナトリウムチャネルのラフトへの移行にどのように関与するのか、また、シアル酸付加の有無が、神経可塑性の変化に反応するラフトの動態にどのように影響を及ぼすのかを検討する。
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