研究概要 |
本研究は、クローン化GABA-B受容体(GABAB1R+GABAB2R),オピオイドμ受容体μ-OPR+カナビノイドCB1Rを発現させた細胞を用いて、異なる4つのアッセイ系を組み合わせて検討を行ったものである。すなわち、 (1)発現受容体の細胞内局在を共焦点レーザーを用いて特定し、(2)発現受容体の多量体化・複合体化をFluorescence Resonance Energy Transfer(FRET)を用いて可視化し、(3)受容体刺激後のシグナル伝達機構を電気生理学的にアッセイし、(4)さらにはμ-OPR,CB1Rのように通常カルシウム動員を惹起しない受容体についても、Gqi5キメラG蛋白と受容体とを結合させた融合クローンを発現させることで受容体シグナルをカルシウムイメージングによって簡便にアッセイするものである。 これらにより、G-protein coupled receptorの多量体・複合体化と細胞内局在、受容体機能との連関を総合的に解析する。さらにこれらのシステムを用いて、受容体複合体化・多量体化に影響を与える因子の検索を行った。 (1)については、共焦点レーザ顕微鏡を用いて、細胞膜上に機能的受容体が発現する際にはすでに細胞内で受容体が複合化しているという知見を得た。(2)については、受容体C末端に蛍光蛋白CFP,YFPを結合させたクローンを作成し、μ-opoidR-CFP +CB1R-YFP受容体がヘテロダイマーを形成して細胞膜に発現していることをFRETにて初めて見いだした。(3)については、GABAB-1R、GABAB-2Rをツメガエル卵母細胞に発現させ、GABAの結合に必要な受容体はGABAB-1Rサブタイプ、シグナルを下流に伝えるのに必要なサブタイプはGABAB-2Rが担っていることを証明した。さらにこのダイマー化をHSP90の阻害剤であるゲルダナマイシンが抑制することを見いだした。(4)については、μ-OPR-Gqi5 +CB1Rをツメガエル卵母細胞に発現させ、これらの受容体が機能的にもヘテロマーを形成してカルシウムシグナルを引き起こすことを世界で初めて報告した。このように、私たちの開発した複合アッセイ法により、新しい知見が次々と見いだされた。 現在はこのアッセイ系をフルに活用し、受容体ヘテロマー形成を調節する因子についてのスクリーニングを行っている。近年受容体ヘテロマー形成により惹起される病態(妊娠中毒症の高血圧、モルヒネ耐性、HIV感染など)が報告されている。これらの病態の治療、予防にダイマー形成阻害薬が臨床応用できるよう、今後とも基礎データを蓄積していく予定である。
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