rBYB1は脳の細胞質において生後2週目までは多く存在し、ポリソームと複合体を形成するが、その後急激に減少する。抗体を作成し、rBYB1とポリソームを含む複合体を免疫沈澱させ、その中に樹状突起やシナプス形成に必要な細胞骨格系タンパク質や、シナプス活動発現に大切なタンパク質をコードしたmRNAの存在を確認した。rBYB1は、脳の機能発達のために必要なこれらのmRNAの翻訳調節をしていると考えられる。この抗体で免疫沈澱される複合体にはFMRP、staufen、purαなどのmRNA輸送顆粒の構成成分も含まれており、実際にrBYB1はニューロンの樹状突起でFMRPとともに顆粒体として検出された。培養ニューロンを高KCl処理するとrBYB1の存在量が減少したことから、脳の発達過程および神経活動によるこれらmRNAの翻訳反応の変化について検討する予定である。 また、神経系腫瘍細胞の核におけるMDR1遺伝子のY-box配列を介したrBYB1とNF-Yによる転写調節については、Y-boxタンパク質のRNA結合性に着目して、核の中のRNAが相互作用することでrBYB1のDNA結合性に変化が生じる可能性について検討し、Y-boxタンパク質だけでなくNF-YのDNA結合性も、核内RNAの存在で阻害されることを見い出している。さらに、神経系腫瘍細胞の核抽出液を用いたin vitroの転写系により、核画分RNAでMDR1の転写が抑制できることがわかった。核内の低分子RNAと思われるものがNF-Yに作用することを示唆する結果を得ているので、その活性の特異性と腫瘍細胞中での作用について調べる予定である。
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