本研究は、脳のミクログリアが貧食性を発現する時に誘導される分子を検出し、貧食能を誘導する分子メカニズムを解析することを目的としたものであるが、今年度は特に、ラットの顔面神経に細胞死を誘導し、それに応答して起こるミクログリアの貧食細胞への変換系を確立することを第一目標に考えた。新生仔ラットの場合は、顔面神経を切断するだけで運動神経は細胞死を起こし、周囲に貧食細胞が現れたが、動物の管理、取り扱いや手術が非常に難しく、日常的な実験には不適当であった。そこで成獣ラットを用い、顔面神経に細胞死を誘導させる簡便な系の確立をめざすことにした。既に報告されているように、毒性レクチンであるRCA60(リシン)を顔面神経に注入する方法を計画したが、この毒性レクチンは日本では入手できないことがわかった。そこで次にその代用として、RCA120を購入して顔面神経に注入してみたが、運動神経の細胞死はほとんど誘導されず、このレクチンは神経細胞死誘導には不適当であることがわかった。そこで、現在、過酸化水素水やパーオキシナイトライト注入による神経細胞死の誘導系を検討している。 神経細胞死の誘導系が確立していないため、ディフェレンシャルディスプレイによる貧食性特異的mRNAの検出実験にはまだ至っていないが、神経細胞死誘導系が確立した場合、顔面神経核からmRNAを検出するための予備的検討は行っている。コントロール側と神経切断側の顔面神経核を切除し、RNAや蛋白質の抽出を行う方法を基礎的に検討した結果、数匹分の顔面・神経核を使用することで、ディフェレンシャルディスプレイや二次元電気泳動による解析が十分可能であることが示された。 毒性レクチンが購入不可という予想外のできごとにより、神経細胞死誘導系が確立されず、当初の計画が遅れ気味であるが、今後新たな試行を行うことにより遅れを取り戻す予定である。
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