痛覚の伝達が一次求心性線維の入力、脊髄後角の神経細胞、層構造でどのように制御されているのか、なぜ触覚が痛覚として誤認されるのかという重要かつ基本的な問題を神経の可塑性に焦点をあてて研究を進めてきた。炎症や組織損傷に伴う慢性痛は痛覚過敏反応と、アロディニアを引き起こし脊髄後角が痛覚伝達に関わる重要な部位である。行動薬理実験から、プロスタグランジン(PG)、オピオイド、グルタミン酸や一酸化窒素がアロディニアに関与することを明らかにした。本研究はアロディニア誘導に関与する神経回路を高空間分解および高時間分解の可視化することを試み、その回路におけるPGや痛覚に関連する神経ペプチド類の作用機構の神経回路網の解析に焦点を当て、痛みにおける神経の可塑性を解明することを目的とした。 1)動物モデルを用いた形態学的解析によるアロディニア発現生体因子の局在 アロディニア誘発に関与する生体因子である一酸化窒素の合成酵素、nNOS、の局在を免疫組織、酵素組織化学的に明らかにした。脊髄後角表層に局在し、脊髄神経結刹モデルでは結刹側でその活性が上昇することを明らかにした。今後、NMDA受容体、誘導型NO合成酵素、PG受容体やPG合成酵素の欠損マウスで個々の生体因子の役割を解析する。 2)脊髄後角神経回路網のイメージング 脊髄横断切片標本にCa^<2+>プローブ試薬のFura-2を負荷しアロディニア誘導関与因子を投与し引き起こされる[Ca^<2+>]_i動態を測定し、因子により脊髄後角表層と深層で[Ca^<2+>]_i上昇効果に違いのあるものを見出した。今後、後根電気刺激により惹起される[Ca^<2+>]_i動態やNO産生を測定し、GAD67-GFPノックインマウスでGABA作動性インターニューロンをGFPの蛍光で同定しながら、詳細なトポロジー検索を行っていく。
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