研究課題
前年度までの研究で、培養海馬神経細胞・グリア細胞共培養系で、アストロサイトが刺激依存的にATPを放出すること、放出されたATPがP2Y1受容体を介してアストロサイト間にカルシウム波を伝播させること、さらにこのアストロサイト由来ATPが、近傍のシナプス伝達を抑制することを穂明らかとし、ATPを介した神経-グリア細胞連関の存在を示した。本年は、このアストロサイトが刺激非依存的・自発的に一定程度のATPを放出しており、これによりシナプス伝達が恒常的に抑制されていること、さらにアストロサイトがendfeetを血管壁に伸ばし、脳血流量の制御にも関係していることを明らかとした。先ず、ATP分解酵素であるapyraseを海馬培養系に添加すると、アストロサイト間の自発的カルシウム波が消失した。これは、P2受容体の拮抗薬でも再現されたことから、アストロサイトが自発的にATPを放出しており、これがP2受容体を刺激することにより、ゆっくりとしたカルシウム波が形成されていることが明らかとなった。興味深いことに、apyraseはシナプス伝達を非常に強く亢進したのである。つまり、自発的に放出されていたATPは、神経細胞のシナプス伝達を、恒常的に制御しているのである。この様に、アストロサイトは細胞外ATPの供給源としても非常に重要な役割を果たしており、特にアストロサイトが刺激をされない場合にも、周辺シナプスを恒常的に抑制する"fine-tuning device"として働いている可能性が示唆された。さらに、アストロサイトはシナプスを取り囲む構造をとる一方で、endofeetを血管壁に伸ばし、血管を取り囲んでいる。このアストロサイトendfeetにはP2Y1及びP2Y2受容体は強く発現しており、ATP依存的なカルシウム波はendfeetにも到達する。このカルシウム波が血管壁の最外層である血管周皮細胞に伝わることが明らかとなった。ATPは(1)直接血管周皮細胞に作用する、(2)endfeetのP2Y1及びP2Y2受容体を介するシグナルカスケードを介して、血管作用因子を産生する、の少なくとも2つの経路で脳内局所脳血流の制御にも関わっている可能性が示唆された。この様にアストロサイトはATPを介して、シナプスだけでなく、血管機能をダイナミックに制御する非常に新しい役割を有していることが明らかとなった。
すべて 2005 2004 2003 その他
すべて 雑誌論文 (9件)
Glia 49
ページ: 288-300
Glia In press
Biochemical J. 380
ページ: 329-338
脳21 7
ページ: 69-74
日本薬理学雑誌 123
ページ: 389-396
J.Pharmacol.Sci. 94
ページ: 112-114
神経化学 42
ページ: 428-442
Purinergic Signalling In press
Purinceric Signalling In press