カルシウムイオン(Ca^<2+>)は、シナプス前終末からの伝達物質物質放出に不可欠であるばかりでなく、その活動依存的調節機構にも重要な役割を果たしている。シナプス前部でのCa^<2+>動態を制御する因子のうち、Ca^<2+>流入に関与するカルシウムチャンネルについては、その詳細が明らかになりつつある。これに対し、シナプス前部での細胞内カルシウムストアの役割に関しては未だ不明な点が多い。本研究ではリアノジン受容体を介した細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出機構が関与する可能性について検討を行った。マウス海馬スライス標本において、苔状線維の走行するCA3野透明層に蛍光カルシウム指示薬rhod-2 AMを局所的に注入し、軸索標識法により苔状線維のシナプス前部に選択的に蛍光カルシウム指示薬を負荷した。このような標本において、蛍光強度を指標にシナプス前部でのカルシウム動態を計測し、同時に電気生理学的にfield EPSPを測定した。また、CA3野錐体細胞からホールセルクランプ法による電流記録も行った。リアノジン受容体からのカルシウム放出を促すカフェィンを投与すると、苔状線維シナプス伝達は著明に増大した。このとき、二発刺激促通は減少し、また、苔状線維終末に由来する微小EPSCの頻度が増加したことから、カフェインの作用はシナプス前終末からの伝達物質放出の促進によると推定した。また、上述した光学的測定法を用いて、カフェイン投与による終末内カルシウムレベルの増加を確認した。以上の結果から、苔状線維終末に機能的なリアノジン受容体が存在すると考えられた。苔状線維シナプスにおけるシナプス前性の長期増強・長期抑圧の誘発にシナプス前終末内カルシウムストアが寄与する可能性が示唆された。
|