本研究ではウサギに特異的な左右同位相の後肢跳躍運動(hopping)の発現・生成において腰髄交連細胞機構が如何なる機能的役割を持つかを明らかにすることを目的とした。本年度は本研究の遂行に必須な実験標本、即ち後肢跳躍運動を再現性良く誘発するためのウサギ実験標本の確立を目指して研究を進めた。このために次の2項目の実験を行い、以下のような成績を得た。 1)除脳ウサギ標本における跳躍運動誘発野の同定:【方法】成ウサギをハロセン麻酔し、上丘前縁と乳頭体後縁を結ぶ面で上位脳を離断した除脳標本を作製した。除脳ウサギの頭部を脳定位装置に固定し、さらに胸・腹部をゴムベルトで保持し反射直立姿勢を維持した。除脳ウサギの脳幹中脳部および小脳正中部近傍に刺激電極を刺入し、これらの脳領域に微小電気刺激をシステマティックに加えた。刺激で誘発される後肢運動の観察より、跳躍運動誘発に関わる脳領域を同定した。【成績】中脳脚橋被蓋核および小脳正中部に連続電気刺激を加えた際に後肢跳躍運動が再現性良く誘発された。これら2つの刺激の最適部位を組織学的に検討したところ、これらはネコで確立されている中脳歩行誘発野(MLR)と小脳歩行誘発野(CLR)に相当することが明らかとなった。 2)後肢跳躍パターンの解析:【方法】除脳ウサギの左右後肢伸筋と屈筋にホルマル線(銅線)を刺入し、MLRまたはCLR刺激で誘発される跳躍運動時の後肢筋電図を導出記録し、後肢跳躍パターンについて解析した。筋電図記録と同時に後肢跳躍運動のビデオ撮影も行った。【成績】MLR刺激では刺激停止後にも持続する左右後肢同位相の律動性跳躍運動が誘発された。しかし、CLR刺激では刺激時に限定して跳躍運動が発現した。さらにCLR刺激電極を小脳正中部より僅かに外側に移動し刺激することで、刺激側とは反対の一側後肢のみに跳躍運動が誘発された。 以上の研究成果は平成16年6月2〜4日に開催される第81回日本生理学会大会(札幌市)において発表する予定である。また歩行誘発野の同定には複数の刺激電極を用いて脳幹・小脳内を効率よく刺激することが有効であり、このため多点刺激用アイソレータ(日本光電)を平成15年度備品として購入した。
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