成熟ラットin vivo標本を用い、呼吸リズム生成の中核であるBotzinger complexとPre-Botzinger complexと呼ばれる領域に存在する抑制性ニューロンについて、それらのシナプス結合と伝達物質を同定する作業を進めた。これまでに、グリシン性のニューロン、GABA性のニューロン、両方を伝達物質として使用していると思われるニューロンを同定した。方法は、機能を同定した単一ニューロンをニューロビオチンで標識し、そのニューロンが、グリシントランスポーター2(GLYT2)のmRNAとGABA合成酵素の異型体(GAD67)のmRNAのいずれかあるいは両方を保有しているかどうかをin situハイブリダイゼーション法で検出することである。 対象領域の漸増型呼息性ニューロンは、呼息相の維持に働く抑制性ニューロンであるが、上記の方法によりグリシン性ニューロンであることが示された。同じ領域の漸減型呼息性ニューロンは、吸息から呼息への相の切り替え時に働く抑制性ニューロンである。これもグリシン性であることが判明した。これらニューロンより尾側にも漸減型呼息性ニューロンが存在し、その機能は不明であったが、一部はグリシン性であること、すなわち抑制性ニューロンであることが示された。また孤束核には肺の伸展受容器入力を中継するニューロンが存在する。これらのうち遅順応型受容器の中継ニューロンはGAD67 mRNAを保有していた。さらにそれらの一部は、GLYT2 mRNAも同時に保有していることが判明した。すなわちこれらニューロンはグリシンとGABAを共放出するものと思われる。 Botzinger complexに上述の漸増型とも漸減型とも言えない、中間型の呼息性ニューロンを同定した。スパイクトリガーによる加算平均法を用いて調べたところ、それらは新しい型の抑制性ニューロンであることが判明した。
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