微小領域凍結X線回折法を用いて、単一筋原繊維中の単一サルコメアからのX線回折像記録に成功した。まず、マルハナバチ飛翔筋を硬直液中でホモジナイズし、筋原繊維標本を得た。これを、薄いポリイミド膜を張った電子顕微鏡用メッシュの上に滴下し、続けて90Kに冷却した液化プロパン中に浸漬して急速凍結した。凍結試料はX線回折実験まで液体窒素中に保存した。測定は試料を真空型クライオチェンバー内にマウントして行った。回折像記録中、試料を74Kの温度に保った。回折実験は大型放射光施設スプリングエイトの高輝度ビームラインBL40XUでマイクロビームを作成して行った。X線の波長は0.1nm、カメラ長は約3mで、検出器は冷却2次元CCDカメラにイメージインテンシファイヤを組み合わせて用いた。マイクロビームはタンタルの基板に穿孔したピンホールの列を用いて作成した。ビームの径を決定するピンホールの径は2μmで、ナイフエッジスキャンにより、形成されたマイクロビームの半値幅が1.5μmであることが確認された。 筋原繊維はビームの軸に垂直に並んでいるはずなので、最も強度の高い赤道反射が筋原繊維の軸と垂直方向にスポット状に現れると予想された。多数の筋原繊維がポリイミド膜上に吸着しているはずであるが、実際に記録された回折像は少数であった。これは予想通りであった、というのは筋フィラメントの格子面が偶々回折条件を満たす向きに固定された(ブラッグ条件を満たす)筋原繊維しか回折を起こさないからである。回折像の解析から推定された試料の太さは約3umで単一筋原繊維の太さに一致した。またビームの径が単一サルコメアの幅以下であることから、得られた回折像が単一サルコメアに由来するものであることが確認された。これは、含水生体試料から回折像記録が行われた最小体積の記録を一気に1/1000に縮めるものである。
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