サルモネラ菌など細胞内寄生菌によるプラスミドのデリバリーは、安全性が高いと考えられるDNAワクチンの効果を高めるのに魅力的なアプローチである。本研究ではその技術開発のための基礎研究としてSalmonella Typhimuriumなどを材料に、β-galを真核細胞特異的に発現するプラスミドをモデルとして、マウスにおいて条件検討を行った結果、以下の成果を得た。 1.pCMVβのマウス初代培養細胞への移行を検討したところ、SL7207株およびΔphoP株で陽性を認めたが、その効率は高くなかった。またSL7207株を用いて、動物レベルでのpCMVβ移行を解析したところ、フットパットルートの脾細胞、経口ルートの腸間膜リンパ節およびパイエル氏板でそれぞれβ-gal陽性細胞を稀に認めた。 2.実験進行中にpCMVβはサルモネラ菌体内で不安定であることが明らかになってきたため、pBR322のレプリコンをもったpBRCMVβを構築したところ、in vitroおよびin vivoでプラスミドを安定化させることに成功した。 3.プラスミド導入サルモネラ菌をBALB/cに経口投与したところ、抗β-gal IgG抗体価については、一部で上昇を認めたが、陰性対照としてβ-gal遺伝子を削除したプラスミドを作成し、同様の実験を行った結果、やはり抗β-gal IgG抗体が陽性になったことから、本検出法は非特異反応を検出している可能性が示唆された。 4.コンジェニックマウスを使った実験から、サルモネラ菌や抗酸菌のような細胞内寄生菌においてはNramp-1遺伝子の機能不全が細胞性免疫を誘導するのに有利に作用することが示唆された。 最近、サルモネラ菌を用いたDNAワクチンデリバリーは、再現性が悪いという報告が相次いでなされており、本研究結果もまた、そうしたシステム系には改良の余地が数多く残されていることを示すもので、概出の論文についてはこの点を十分注意をして評価すべきであろうと思われる。しかしながら本研究で得られた結果は、今後サルモネラ菌に限らず、細胞内寄生菌を用いたDNAワクチンデリバリーシステムの開発に有用な情報を提供するものである。
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