研究概要 |
2つのマウス近交系統、♀DDDおよび♂DH-Dh/+間のF1♂Dh/+マウスは、生後まもなく成長障害を示し死亡する。主たる死因は直腸の先天奇形による排泄不全である。F1♀Dh/+は発症しない。また、♀DH-Dh/+および♂DDD間のF1♂Dh/+マウスも発症しない。本疾患は、1番染色体Dh遺伝子座、X染色体Grdhq1座、およびY染色体遺伝子座の独立した3遺伝子座における特異的アレルの組み合わせにより生じる多因子性遺伝疾患である。本研究の目的は、これら3遺伝子座、特にXおよびY染色体座の原因遺伝子を同定することである。Grdhq1座は♀(♀DDD×♂DH-+/+)F_1-+/+×♂DH-Dh/+の産仔のうち、♂Dh/+および♂+/+の成長障害産仔、正常産仔を利用し、X染色体遠位部、擬似常染色体領域(PAR)近傍にマップされた。Grdhq1がX特異的領域に存在するか否かの検討を行った。♀(♀DDD×♂DH-Dh/+)F_1-Dh/+×♂DDD交配産仔の結果によれば、♀Grdhq1^<DDD>/Grdhq1^<DDD>-Dh/+は正常に離乳した。すなわち、Grdhq1のみでは本症は発症しない。この領域には多型マーカーが著しく乏しいため、♀(♀DDD×♂CAST/Ei)F_1-+/+×♂DH-Dh/+および♀(♀DDD×♂SPRET/Ei)F_1-+/+×♂DH-Dh/+による産仔を利用し、詳細にマップする。本年度はこの交配を開始した。Y染色体座については、DH系統の基となるBALB/c,C3H/HeJ,C57BL/6J,のうち、BALB/cおよびC57BL/6J由来のYは本症を発症するが、C3H/HeJ由来のYは発症しないことが明らかとなっている。これらM.m.musculus型Y染色体に加え、M.m.domesticus型Y染色体に関しても発症の有無を検討した。各々のYをDHの背景に戻し交配したYコンソミック系統(N_<14>〜N_<19>)を作出し、検討した結果、AKR/J,DDD,SJL/J,SWR/J,TIRANO/Ei(以上M.m.domesticus Y),C57BL/6J,BALB/c,DH(以上M.m.musculus Y)由来のYは本症を発症させるが、RF/J(domesticus),CAST/Ei,C3H/HeJ(musculus)由来のYでは発症しなかった。すなわち、Y染色体座に関しては、本症を発症するYと発症しないYの2種類のY染色体が実験用マウスに共存していることが明らかとなった。♀Grdhq1^<DDD>/Grdhq1^<DDD>-Dh/+が正常に離乳する結果とともに、Y染色体特異的領域に原因遺伝子が存在することを示すことが明らかとなった。
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