研究概要 |
減数分裂時における遺伝的組換えは、生物の遺伝的多様性を高める重要な機構の一つである。しかし、その機構に関しては未だ不明な点が多い。我々はC57BL/6で生じた被毛の形態異常を起こす突然変異遺伝子Ca^<Rin>(Kikkawa, Y.et al., Genetics165:721, 2003)の日本産野生マウス由来の近交系MSMをパートナー系統として用いた連鎖解析の過程で、第15染色体末端近傍で組換え率が雄で雌の数十倍高いという大きな雌雄差のあることを見いだした。この雌雄差を引き起こす原因を明らかにすることは、減数分裂時の組換え機構を探る上で重要な手がかりになると考えられる。我々はこの領域内のマイクロサテライトマーカーD15Mit40とD15Mit15の間でBACおよびYAC contigを作製してその物理距離を測定した結果、マウスゲノムでの物理距離当たりの平均組換え率と比較して、雌では組換えのcold spotであり、雄ではhot spotであることが明らかになった。我々はこの領域内に新たにDNAマーカーを作製し、詳細に検討を加えた結果D15Mit15近傍にこの領域の雄における組換えの80%を起こしているhot spotの存在が明らかにした。次に、このような組換え雌雄差は測定に用いたマウス系統に依存する現象かどうか明らかにするためにC57BL/6の代わりにBALB/c系統を用いて連鎖解析を行った。その結果、雄に関してはC57BL/6同様D15Mit15近傍において高い組換え率を示したのに対し、雌では現在のところこの領域において組換え体は得られておらず、C57BL/6系統と同様の組換え雌雄差が観察された。これまでの様々な系統を用いた連鎖解析の結果と今回の結果から、日本産野生マウス由来近交系MSMと従来のdomesticus由来実験用マウス系統との間で最も組換え雌雄差の生じることが示唆された。
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