研究概要 |
ポストゲノム研究としての遺伝子機能やタンパク機能の,生きた状態(in vivo)での解析が強く求められており,生物発光酵素や蛍光タンパク遺伝子をレポーター遺伝子として組み込んだ,トランスジェニックマウスによる遺伝子発現の分析法が広く普及してきている。しかしその対象は組織切片や,細胞,あるいは開腹臓器などであり,生体組織深部を対象とした計測は従来技術では不可能である。われわれは,生きたままの生体を対象として,生体に侵襲を与えることなく,その内部における遺伝子発現の動態を経皮的蛍光観測により行う技術の研究開発を行っている。本年度においては,蛍光レポーター遺伝子を生体外において画像検出するための基礎技術の開発を行った。蛍光画像計測を行う上で解決すべき課題は,第1に生体組織における光散乱による空間分解能の劣化に対する改善であり,第2に背景雑音の原因となる組織由来自家蛍光の効果的分離である。第1の課題に対しては,コヒーレント検出イメージング法による直進散乱光成分の選択的検出法を適用し,散乱体中における高分解画像検出法を検討した。第2の課題に対しては,ターゲット蛍光物質と自家蛍光の蛍光寿命の差を利用した蛍光時間分解画像計測法,およびターゲット蛍光物質と自家蛍光のスペクトルパターンのちがいを利用した分光画像計測法の2つの手法についてその有効性の検討をそれぞれ行った。これらの実験に先だって,ゼラチンゲルおよび散乱媒質としてイントラリピッドを用いて,蛍光物質がゲル散乱体中に局在するファントム試料を試作した。試作したファントムを用いて各種実験を行った結果,コヒーレント検出イメージング法が蛍光物質分布計測において有効であることを確認した。また画像分光によるスペクトルパターン分析法についても原理実証実験を行い,従来法と比較して有効であることを確認した。さらに,蛍光寿命の長い半導体ナノクリスタル(量子ドット)をターゲット蛍光体として用い,時間分解蛍光画像計測法を検討するため,時間相関単一光電子計数法による蛍光寿命分析システムを組み上げ,各種ナノクリスタルの蛍光寿命の測定を行った。来年度は,マウス,ラットを用いて実際の生体組織内において局在する蛍光体を非侵襲定量計測するための技術の開発を継続して行う予定である。
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