研究概要 |
頭蓋内圧や組織弾性は脳の生理機能の解明・診断のために重要であるが,これまでこれらを非侵襲計測する方法がなく,十分な解析を行うことができなかった.そこで本研究ではMRIによる流速測定に基づいてこれらの因子を非侵襲推定する方法を提案し,その有用性を検討した.脳循環を解析するため,血流ならびに脳脊髄液流は電流で,圧力は電圧で,脳実質から脳脊髄腔への庄変換は変圧器で表した等価電気回路を考案した.ボランティア(腫瘍患者2名,健常者5名)ならびに脳循環ファントム(自作)実験において動静脈と脳脊髄腔に交わるスライス面で各流速を位相コントラスト法で測定した.血流ならびに脳脊髄液流に対してπ[rad]あたりの速度域を各々60〜100ならびに5[ml/min]と設定した.ファントム実験においては本計画で購入した純水製造装置で得た水を真空チャンバで脱気し,さらに界面活性剤を加えて使用した.画像から求めた各流量を電流として与え,回路素子(抵抗,リアクタンス,相互インダクタンス)を同定する逆問題を解き,頭蓋内圧と脳組織圧縮率に関する指標を推定した.逆問題の求解においては[-108,108]の範囲の一様乱数により1000通りの初期値を発生させ,大局及び局所最小解をマップした.解析には本計画で購入したパーソナルコンピュータを使用した.全ての実験において大局最小解が求められた.求められた回路定数に2次側電流をかけることにより求められた圧力指標は術前の患者と健常者との間で危険率9.2%で有意な差が見られた.等価回路素子の比ならびに圧力指標が決定でき,かつそれらが一定値に収束したことから,これらが頭蓋内環境を表す因子となりうることが示唆された.以上のように本年度は,研究の基礎段階として流速測定と等価回路による頭蓋内環境因子の非侵襲推定法を提案しその可能性を検討した.今後は撮像・解析アルゴリズムの改良を重ねると共にボランティアデータ収集を続け臨床的な有用性を検討してゆく.
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