本研究では、膜蒸留技術(membrane distillation ; MD)を利用した濾液再生型血液浄化システムの開発を目的とし、将来在宅で施行することを想定した。MDは疎水性多孔質膜を用い、膜面温度差に基づく蒸気圧差により、水蒸気が細孔内を移動することを利用した分離技術である。本研究課題では、これを人工腎臓治療の除水もしくは体液置換に利用するために水系 in vitro、イヌ ex vivo系の基礎検討を行った。 1)液-液系in vitro実験:疎水性中空糸状polypropylene膜モジュール(泉工医科工業社製30ECを改良した試作品)を利用し、10℃と37℃のRO水を中空糸内外にそれぞれ0.05〜2.0L/minの流量範囲で再循環実験を行ったところ、最大で45mL/60minの水移動が確認できたが、必要熱エネルギーは624J/sと比較的大きく、実用性の乏しい結果が得られた。 2)気-液系in vitro実験:RO水より熱容量の小さい空気を用い、低温側で6〜80L/minの流量にて、1)と同様な実験を施行したところ、必要熱エネルギーを161J/sに抑えることができ、最大93.2mL/30minの水移動が得られた。また、水分移動速度は一定値を維持し、経時減少は見られなかった。 3)イヌex vivo試験:尿管結紮したビーグル犬による4時間のex vivo試験を行ったところ、体重で11.35kg→11.00kgの水分除去が確認され、ヘマトクリットも上昇した。 在宅治療を実現させるためには、患者体温と室温を温度差とする省エネルギーシステムを構築する必要がある。そのためには小さな温度差でも水分回収効率のよい、高効率なMD膜の選択、モジュールの至適設計が不可欠と考える。
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