研究概要 |
本研究の目的は,模擬微小重力環境(3D-クリノスタット)が,ヒト間葉系幹細胞の軟骨分化にいかなる影響を及ぼしているかを分化誘導因子とその細胞内シグナル分子の挙動で明らかにすることにある. それにより以下の知見を得た. 1)3D-クリノスタットで細胞を培養すると形態学的,分化調整因子から間葉系幹細胞の細胞増殖が飛躍的に高まり(7日で1x10^9個/mlまで増殖),軟骨への分化が抑制された. 2)FACSのフローサイトメトリーでは,培養2週後までの幹細胞の挙動を検索すると表面抗原の発現(CD14^-,34^-,45^-,29^+,44^+)から間葉系幹細胞の表面マーカーの発現を維持していた. 3)細胞内シグナル伝達に関わるMAPK・ファミリー(MAPK/ERK,p38,SAPK/JNK)のリン酸化活性をみると細胞増殖に関係するMAPK/ERKの活性が上がり,細胞分化とストレス応答に関係するといわれるp38のみ特異的に活性が低下した. 4)テロメア長をみるとテロメアの活性は3D-クリノスタットで経時的な変化はなかったが,1Gの対照群では,テロメア長が経時的に短くなった.テロメアーゼの活性には両群共に変化がなかった. 5)軟骨欠損モデル動物に細胞移植を行った結果,3D-クリノスタットでは,80%の生着率で正常関節軟骨を形成したが,対照群では,14%の生着率で関節軟骨様組織を形成した. 以上の結果から模擬微小重力環境では,幹細胞が未分化高密度培養でき,マウスの軟骨欠損モデルに細胞移植すると高い生着率で軟骨を形成した.さらに以上の結果のメカニズムを探るため模擬微小重力環境による細胞骨格の変化をみた.その結果,3D-クリノスタットで細胞が接着する部位(接着斑)が非常に減少して,アクチン系の細胞骨格の発現が低下するのに対して1Gの対照群では,接着斑とアクチン系の細胞骨格の発現に変化を認めなかった.以上の事から,模擬微小重力では,幹細胞が未分化高密度培養できるが,そのメカニズムとして重力センサーの接着斑と細胞骨格の変化が誘因であることが示唆された.
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