研究概要 |
平成16年度は当該2年計画研究開始の最終年度にあたり、構築した書字運動解析のシステムを用いて、右利き健常者および右利きの軽症の右片麻痺者を対象に書字運動を解析し、書字運動が麻痺によって、どう変化するかを検討した。対象は高次脳機能障害のない軽症(SIAS stage3-5/5,握力比0.6±0.2)の右片麻痺者11名で、年齢を一致させた右利き健常者12名を対照とした。左右の手で、1.2,3.5,9.5cm角の3種類の大きさの平仮名「ふ」を、初めに各人の自由な書体(普段書いている書体)で、次に手本書体をなぞらせて、各々10字、合計1200字を記録した。評点はペン先、示指MP関節、橈骨遠位端の3ヶ所で計120Hzのサンプリングを行った。オフラインにて、汎用数値解析ソフトウェアMatlab(Cybernet社)を用いて、書字時間、各点の軌跡長、各点の運動半径、運動半径比を計算し、SPSS(日本SPSS社)によって統計解析した。なお、運動半径比とはペン先の運動半径を1とした時の他の2つの評点の運動半径比で、利き手書字では近位を固定し遠位の動きでなされことを反映して0に近い値を示す。 同一サイズの書字を比べると麻痺によって書字速度は遅くなるのは当然の帰結であるが、運動半径比については麻痺の重症度でなく、関節位置覚障害の有無によって異なることがわかった。位置覚正常群では対照群とほぼ同様、すなわち利き手の小さい字の自由書字において運動半径比は0に近く、利き手書字、すなわち学習された巧緻運動特性が保たれていることが示された。位置覚障害群では利き手、非利き手に関係なく、自由・なぞり書きの全てで書字中の運動半径比が1に近い値となり、利き手の特性が失われることがわかった。
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