研究概要 |
本研究では、書字運動を特徴づける三次元運動解析パラメータを探索し、右利きの軽症の右片麻痺者6例と右利き健常者10例を対象に、左右の手による書字運動特性を解析するとともに、麻痺による書字運動の変化を検討した。左右の手で1.2,6,15cm角の3種類の大きさの平仮名「ふ」を、初めに各人の自由な書体で、次に楷書体手本をなぞらせた。評点をペン先、示指MP関節位、橈骨遠位端の3ヶ所において三次元座標からオフラインにて、書字時間、書字軌跡長、各点の運動半径、そしてその運動半径比を計算した。運動半径比とはペン先の運動半径を1とした時の他の2つの評点における運動半径比で、手や腕を固定してペン先の動きだけで書字がなされれば0に近くなり、反対にペン先と手全体が一塊となった動きでは1に近い値を示す指標である。 健常者の自由書字では字体が大きくなるほどペン先は速くなり、書字時間を一定にする傾向を認めた。利き手書字の習熟性の反映と解釈できた。加速度や躍度あるいは文字軌跡長/文字半径といった書字運動や文字を構成する線のスムースさを反映するパラメータの一部で、感覚障害のある麻痺手による書字の稚拙さを示すことができた。健常者の書字運動半径比の結果で、字が大きくなるほど評点は一塊となって動くが、その一塊性は右手より左手で顕著となった。一方、右不全片麻痺者において、感覚が正常であれば健常者の右書字と同じ運動半径比の特性を認めたが、感覚障害があると小さな字でも一塊の動きになることが示された。つまり、麻痺があっても、感覚障害がなければ、書字速度は遅くなるにもかかわらず運動半径に示される利き手の習熟書字の運動特性は保たれることがわかった。 巧緻運動の特徴の1つとして、身体各部の運動の独立性をあげることができるが、本研究の示す運動半径比はまさに、そういった独立性・分離性を示すパラメータといえる。
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