健常者の立位姿勢制御と随意運動の関係について、両足部内に重心を保持しながらgoal-postureに向けた姿勢調節を必要とする樽裾動作と、目的とする部位へ重心を変位させる必要のある着座動作に関して、運動学的に検討した。着座動作では、腓腹筋の一過性の活動による足圧中心の前方変位が、身体に後方への運動モーメントを供給する画一的な運動制御がみられ、その反復によって、足圧中心は前方に保持された。その結果、椅子上への重心移動時に加わる後方への衝撃が軽減いた。一方、樽曙動作の開始時には、前脛骨筋、腓腹筋のどちらの運動戦略を用いることも可能であり、反復による立位制御の変化は認められなかった。 右大腿部での阻血による神経遮断が立位姿勢制御におよぼす影響を詳細に検討するために、立位姿勢で随意運動を必要としない長時間立位保持課題について、健常成人9名を対象に検討した。20分以上の立位保持では、足圧中心や下肢関節角度、筋活動に有意な変化は同定されなかったが、右大腿部以下の脱神経によって、右ヒラメ筋の筋活動は減少し、それに伴って右足圧中心の後方変位と、左前脛骨筋および右中殿筋の筋活動の増大が認められた。さらに、足圧中心動揺の解析から、片側下肢の体性感覚入力低下によって、内的代償機構をもってしても前後方向における姿勢の安定性を管理することは困難となることが確認された。したがって臨床においても、前後方向の安定を確保するために、補装具などによる外的代償を必要とすることが示唆された。 これらの機能的適応は、左下肢を中心に行われることが観察されたことより、姿勢を変化させる必要がある場合には、運動の支点となる足部からの感覚情報が必須であり、単なる立位姿勢保持のための課題とは異なる姿勢制御法が適応されることが確認された。
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