本年度は、柔軟性を関節可動域と定義し、健常な被験者を対象に、関節可動域の規定因子について検討を行った。特製の筋力計を用い、モーターによって足関節を一定のトルクで背屈方向に回転したときの背屈角度を計測した。中高齢男女を被験者とした実験を通じて、以下の知見が行られた。1)同じトルクを付加しても、それによって受動的に生じる足背屈の角度は被験者によって異なり、足関節の「柔らかい」人や「堅い」人が存在した。2)男女とも、受動背屈角度と下腿後部の筋厚との間には有意な負の相関関系が望められ、背屈時に伸長される下腿後部の筋群が多いことによる伸長抵抗性が柔軟性と関系していた。3)受動背屈角度は高齢の被検者ほど小さくなる傾向であり、これは腓腹筋やアキレス腱の伸長性の違いと関係していた。4)等尺性最大足底屈トルク発揮のスピードは最大等尺性測定トルクと有意な正の、そして年齢との間に負の相関関係が認められた。これらの結果から、柔軟性を左右する因子として、筋量(多いほど柔軟性が低い)、筋力(大きいほど柔軟性が高い)、筋腱複合体の材質特性(堅いほど柔軟性が低い)があげられた。高齢者の場合は、筋萎縮によって受動伸長組織が減少するが、組織そのものの伸長性が低下することにより、受動背屈角度が減少することが示された。また、高齢者に顕著な筋力低下が自力で動かせる可動域の幅をさらに狭める可能性が示唆された。高齢者においては、しなやかな、すばやい動きのために筋力トレーニングが必要であることが明らかになった。そのほか、中学生男女を対象にした実験を同様に行い、成長が柔軟性に及ぼす影響について検討を進めている。
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