本年度は、高齢者を対象に、関節可動域の性差およびその規定因子について検討を行った。被検者は事前に実験参加に同意した140名の健常な高齢者(65-83歳;女性86名、男性54名;平均年齢に男女差なし)であった。被験者は定期的な身体運動を実施していた。特別に製作した筋力計を用い、様々な設定トルクで他動的な足関節背屈を行ったときの設定トルクと他動関節角度変化の関係を求めるとともに、超音波装置を用いて、腓腹筋内側頭の遠位筋腱移行部の足背屈に伴う移動(腓腹筋筋腹伸長)と設定トルクの関係を求めた。次に、関節角度を変化させたときの筋腱複合体全長の変化を推定し、アキレス腱の伸長を推定した。上記に加えて、特別に作製した角度計を用いて、被検者自身が最大努力で背屈動作を行ったときの足関節角度(能動背屈角度)を計測した。設定トルクが増すにつれて受動足背屈が進行し、関節角度変化は男性よりも女性が大きかった。このときの筋腹の伸長率(安静時の推定筋腹長に対する増加率)は、女性が男性を上回っていた。一方、能動背屈角度には男女差はみられなかった。以上の結果は、足関節の受動背屈角度が伸長される組織(下腿三頭筋を中心とした足底屈筋群)の多寡に依存し、一方、能動背屈角度は背屈筋群の筋量や筋力の影響も受けることを示唆する。これは中高年者を対象とした申請者らの先行研究を支持する結果であるが、腱伸長率(安静時のアキレス腱長に対する増加率)に性差がみられないなど、高齢者に特有の傾向も認められた。この他、中学生男女および青年男女について同様の実験を実施し、現在結果を分析中である。また、静的ストレッチングおよび等尺性筋収縮が筋腱複合体の伸長性に及ぼす一過的効果に関する実験を現在進めているところである。
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