本年度は、前年度までに明らかになった足関節柔軟性(可動域)の性差や加齢変化に関する横断的研究の知見を一歩進めて、個人内の柔軟性の可塑性に影響を及ぼす因子について検討を行った。静的ストレッチング、力発揮の連続、マッサージが足関節の可動域に及ぼす効果を検討するために、成人6名を対象として各試行の前後で足関節の背屈角度、下腿三頭筋の最大随意筋力、皮膚上の表面温および筋温、足関節のみで行う跳躍動作(反動無し/反動有り)を測定した。その結果、ストレッチングとマッサージにはいずれの指標にも有意な変化はみられなかったが、力発揮では跳躍動作のパフォーマンスとした力積が有意に増加した。このことから、ストレッチングや力発揮を行った際に、ウォームアップで用いる程度の負荷では、跳躍動作の向上よりパフォーマンスに対する効果はあるものの、関節可動域や最大筋力には有意な変化をもたらさないことが示された。また、成人男性6名を対象として20分間の足関節の他動背屈を行ない(静的ストレッチングを模した試行)、その前後で下腿三頭筋腱複合体の伸長、腓腹筋伸長、アキレス腱伸長を算出し、他動背屈の効果に筋伸長と腱伸長のどちらがより貢献するかについて検討した。20分間の足関節の他動背屈の前後で筋腱複合体伸長と腱伸長は有意に増加したが、筋伸長には有意な変化はみられず、ストレッチングの効果は筋腹よりも腱に表れやすいことが示された。これらの知見から、足関節可動域や身体運動のパフォーマンスのトレーナビリティには腱組織の伸長性の変化が大きな影響を及ぼすことが明らかになった。
|