本研究は行政主導で進められる事業への地元住民の対応を「部活」の「地域化」に注目してスキーを取り上げ考察を試みた。北米を中心とするメガ・イベントのレガシー研究を手がかりにし、長野五輪の地元へのインパクトと五輪の影響がなかった福島県檜枝岐村を事例として取り上げた。 レガシー研究の焦点の一つはイベント開催後にその「遺産」が地域住民の誰に、どの様に受け入れられるのか、という点にあった。また、地域課題は構成されるものでもあり、時には対立する複数の生活課題が存在していることも確認された。 長野市周辺地域では長野五輪のレガシーとして作られた次世代競技選手養成システムが実施されていた。複数の中学高校のスキー部が地域住民の協力を得ながら活動しているが、その活動は競技選手の育成に特化されていた。しかし、地域課題との接点は現在のところ見出すことはできず、選手の進学、就業問題という課題が浮かび上がってきた。 一方で、檜枝岐村では総合型地域スポーツクラブが設立され、トップアスリート育成とは対照的な動きを見せた。しかし、県の支援がなくなると同時に活動も急速に縮小しつつあった。観光を生業とする同村においては近年の観光客の激減が大きな問題であり、第三次産業への特化、観光客を対象にした大型施設建設という従来の方針の修正が迫られている。その中で、柔軟に対応するスキークラブと衰退しつつある総合型地域スポーツクラブは対照的ですらあった。このような状況は村側の責任と判断することは難しい。総合型地域スポーツクラブの理念と同村の実態との乖離が大きいがゆえの問題ではないだろうか。 「部活」の「地域化」や総合型スポーツクラブ育成を考える場合に、地域住民の暮らしを視野に入れる必要を指摘した。スキーをするために地域暮らすことを望む人の存在や、地域課題とスキーを結び付けようとする白馬村の試みも見られ、今後の研究課題としたい。
|