運動技能の習得にともなう視覚的認知方略の変容について明らかにするため、以下の仮説を検証した。実技実践をともなうことで視覚的探索パターンが変化し、より分析的な見方になる、そして実技経験者ならではの評価(コメント)が増加する。これらを検証するために、実技学習前後の刺激映像に対する視覚的探索パターン(アイマーク・レコーダにより記録される注視点の停留時間と停留位置の比率)とコメント(特徴の表現)、および実技パフォーマンスの評価を行った。学習により実技パフォーマンスは向上していた。学習群ではトスされたボールの軌道、体重移動、ラケットやそれを持つ腕、膝の屈伸に関するコメントが非常に増えていた。これらのコメントは、実技実践をともなわない被験者では増えなかったことから、運動技能の習得にともなう評価であると考えられる。学習群では注視点の停留時間が徐々に短縮し、身体中央部の余り情報を有していない部分よりも、トスされたボールの軌道、ラケットやそれを持つ腕、膝などに注視比率を高めていた。これらは大雑把にフォーム全体を眺めるというのではなく、より分析的に多様な部位を素早く探索するという方略が確立されてきたことを示すものと考えられる。実技学習では身についていた動作とそうでないものがあったが、これらと視覚的探索パターンやコメントとの間にも一定の関係が見出された。以上のことから本研究の課題(映像の特徴の表現)では、運動技能の習得にともなって視覚的認知方略はより分析的な方向に向かうことが示唆された。また教示によってく特定箇所(本研究ではラケットやそれを持つ腕の動き)に対する被験者の視覚的探索行動が強く影響されることも明らかとなった。
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