本研究の目的はスポーツ文化における身体経験の可能性を、人間の存在論的意味と関わらせながら現象学的解釈のもとに提示することである(平成15-16年度)。 本年度(平成15年度)は、理論的枠組みの検討、国内での研究発表、専門的な知見の収集に関わる作業を行った。 研究代表者は、人間の身体的経験の可能性を身体の存在論的意味と関わらせながら「身体の解放と自由」のあり様を、1960年代以降における身体論のレビューとして、特に変容する身体への眼差しの観点から検討した。また東西スポーツ文化における身体経験を解釈する理論的枠組みとして、象徴形式としての東洋的動きとセルフ・コントロールの検討を行った。さらに1930年代以降の米国の身体教育界に影響を与えたM.トッドの流れをくむ「イデオキネシス」のボディ・アウェアネスの技法が東洋の内観(感)法と類似していることに注目して、ボディマインドの調和をめざす専門的知見の収集と資料の訳出を試みた。 研究分担者は、米国の教育思想家J.デューイが学校教育に採用したアレキサンダー・テクニークの講習会において、その実施方法、形態、指導方法などの調査とともに、体験者へのインタビューを通して、その特性を検討した。さらに、気功における身体経験の現象学的分析を行った。特に身体技法(型)の習得がどのように行われてゆくかについて、内感的身体の観点から分析した。その結果、型の修得段階は従来から考えられていたように、単純な三段階ではなく、さらに何段階かの階梯の有ることが予測された。暫定的仮説として四段階説を提示した。授業における学生の内感的身体の記述を解釈することで、その四段階を確認した。また身体の見方に内感的なものに加えることによって、これまでの体育の目標にも変更の必要があることが確認された。
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