研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、東西の身体・スポーツ文化にみられる身体観の差異を、身体観が生み出す身体的経験の語りに基づいて現象学的に解釈することであった。その結果、身体存在に対する3つの見方の特性を整理した。第1は、北米におけるボディワーク(イデオキネシス法など)の身体観である。それは、「人体解剖学的な地図」(認識表象)に沿って、主体の内観イメージを自己のからだに描くもの(想像表象)であり、身体の自己認識および姿勢の改善に有用な方法である。これら欧米の技法は、「身体との対話」または「私の動く感じ(キネステーゼ)」を重視するため、東洋的な身体観に近いように見られるが、静的に外から把握された解剖学的な意味での客観的身体像(観)に基づくという点で、東洋伝統の内観(感)的な身体把握の対極に位置している。第2は、北米先住民の神話的身体観である。先住民の伝統的身体・スポーツに関する語りの事例から、神話的・文化的身体観を抽出した。それは存在論的世界を語り出したものであり、神話的身体観を内包する身体経験が「癒し」の身体技法として、文化の原初的な形を提示するものであることが示唆された。第3に、東洋的身体技法から内感的身体観が抽出された。主体が生きて経験する身体の内側のあり方、さらには自然と繋がりを持って営みを行っている「からだ」を自然と共にそのままに感じ取る必要があるとする身体観である。以上、3つの身体観の諸相とそれを内包している身体技法を教材とした身体教育(体育)が、特に大学体育においては有効であることを示すデータ(経験の記述)が抽出された。そこでは東洋的身体技法(気功)による身体感覚の変容と自己認識の深化が顕著に認められた。こうした重層的、多義的な身体観に基づく身体技法の修得が、人間の存在論的な意味での拓きの可能性を示唆していることから、現在の大学体育目標を批判的に検討する必要性が示唆された。
すべて 2005 2004 2003
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