研究概要 |
本研究は,スポーツ選手の運動後の喫煙が呼吸循環機能に及ぼす影響を明らかにすることであり,本年度は,6日間の禁煙による自律神経調節能への影響を検討した。 被験者は,ラグビー選手K.I.,バレーボール選手N.T.,陸上長距離走選手K.N.の男子3人であった。喫煙中止前の実験(実験1)では,タバコを1本喫煙した後,呼吸機能,静脈血の血液成分・ガス性状・ニコチン量を測定し,その30分後に,自転車で無酸素的最大パワー作業を行った。K.I.は4・6・8キログラムポンド(KP),N.T.は5・7・9KP,K.N.は3・5・6KPの負荷をそれぞれ10秒間,2分間の休息をはさみ最大努力で駆動した。作業5分前から作業後の回復期間,心電図を測定し副交感神経活動水準解析ソフトを用いて自律神経調節能(HF)を検討した。また,作業中パルスオキシメーターにより動脈血酸素濃度を測定した。実験1の後被験者は禁煙し6日後に喫煙を除いて同じ実験(実験2)を行った。 喫煙後のニコチン濃度は,0.02〜0.03μg/ml,禁煙後のコチニン濃度は0.006〜0.015μg/mlであった。どの被験者も自転車の作業成績に大きな変化を示さなかった。しかし,K.N.のHFは作業時,休息時,回復期ともに亢進し,副交感神経機能の改善が認められたと考えられる。この傾向はK.I.においても認められた。K.I.の作業前安静時HRは禁煙後に10拍/分低下したが,4kpの作業時のHRは約20拍/分高まり,その直後の休息時では禁煙前と同じ水準に低下した。6日間の禁煙によりHRは運動に適応して高まりやすくなり,かつ運動後に速やかに低下する傾向が示された。パルスオキシメーターによる動脈血酸素濃度の値は,安静時で約98%,自転車最大作業時で約94%への減少を示し,運動時の有益なデータを得ることができた.
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