研究概要 |
1.本研究の目的は,喫煙が短時間最大作業時及びその回復期に及ぼす影響を自律神経系の調節機能の観点から明らかにすることであった。延べ10人について同じ実験を行ったが,代表的1例を報告する. 2.被験者は喫煙習慣のある男子大学生1名(ソフトボール選手,22歳,身長168.5cm,体重71.3kg,喫煙履歴4ヶ月,1日の平均喫煙15本)であった。被験者は朝7時30分に起床して朝食を摂り,9時にタバコを1本喫煙して10時30分に自転車での無酸素的最大パワー作業を行った。被験者は,1KPで3分間60回転の作業後に3分間の休息をとり4KPで10秒間の最大作業,2分間の安静休息,6KPで10秒間の最大作業,2分間の安静休息,8KPで10秒間の最大作業とその後の安静休息をした。被験者は,7日間の禁煙後,喫煙を除く同じ条件で再実験を行った。自転車の最大作業は,4KP・7KP・8KPであった。右手薬指先端より採血した血液により血糖値と乳酸値を測定した。心電図から自律神経系活性解析システム(大日本製薬)により心拍数とRR間隔変動高周波成分HF(0.15-2.0Hz)を求めた。 3.禁煙後の実験で被験者は最大作業後に嘔気を呈し,約7分後に嘔吐した。この間の心拍数は禁煙前のそれを下回っていた。嘔吐後に心拍数は高くなりその後緩やかに低下した。この現象はHFの変化と対応していた。禁煙後の1kp作業時の心拍数の高進とHFの抑制は禁煙による副交感神経系の運動に対する応答が活性化したものと考えられる。また,禁煙前の最大作業後10分後からの心拍数の低下とHFの高進の状態は喫煙による副交感神経の応答の低さであると考えられる。禁煙後の乳酸値は禁煙前の乳酸値に較べて低下現象を示した。禁煙後の作業直後の血圧は禁煙前の血圧に較べて低値を示したが,回復期の血圧は高くなる傾向を示した。RPEの指標は嘔気に関する指標としてよく対応していた。被験者は血糖値の低下時においても糖分を含まないナチュラル水を欲した。以上のことから,禁煙により自律神経調節能は運動に対して速やかに反応するように変化したと推察された.
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