雌ラットにβ2アゴニスト(アドレナリン受容体作動薬)のクレンブテロールを投与して心臓および骨格筋において筋肥大が発生し、さらに骨格筋では遅筋の速筋化が発生することをmyosin重鎖成分の変化から確認した。また乳酸脱水素酵素(LDH)のアイソザイムおよび乳酸トランスポーター(MCT1)とその膜移行に関わる蛋白(CD147)の測定を行い、解糖系代謝の亢進を蛋白質レベルで明らかにした。さらにそれらの変化の原因を解明するためRT-PCR法による遺伝子解析のシステムを構築し、MCT1やCD147やMyoDやUCP3と言ったもののmRNA量を測定し、蛋白質と遺伝子発現の調節機構について平行的に進行するものとCD147のように同期しない存在を明らかにした。特にCD147に関しては蛋白質発現に別の調節機構の関与を示唆する知見を得た。糖の代謝系の変化には脂質代謝の調節も関与している可能性があることがUCP3の結果から示唆され、薬物の組織間クロストークの影響の検討の必要性が認められた。更に筋肥大や速筋化と関連すると考えられるIGF-Iやmyogeninなどの種々の蛋白質のmRNA量を増幅定量するための基本条件の設定を完了した。 骨形成に対するβ2アゴニストの影響を明らかにするためin vitroの系を使用して破骨細胞誘導因子(RANKL)の発現等に関して検討した結果、クレンブテロールではmRNAの解析からRANKLの発現促進が認められ骨形成の抑制作用が示唆されたが、無酸素運動で増加すると推測される高濃度乳酸の単独負荷では骨芽細胞の増殖が促進されることが確認された。このことはクレンブテロールが蛋白Aキナーゼ(PKA)を介した解糖系代謝の亢進だけでなく蛋白Cキナーゼ(PKC)やその他の細胞内調節機能を変動させる極めて複雑な作用機序を有していることを示唆する重要な知見をもたらすものである。
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