研究概要 |
<目的と方法>本研究は、低酸素暴露と運動が肝臓におけるDNA損傷と抗酸化能力、各組織における神経伝達物質に及ぼす影響を検討するために行った。4週齢のWistar系オスラット18匹を次の3群(各群6匹)に分けた。(1)低酸素環境で運動群(HE;Hypoxia+Exercise)、(2)低酸素環境で非運動群(HS;Hypoxia+Sedentary)、(3)通常酸素で非運動群(NS;Normxia+Sedentary)。低酸素環境は低酸素コントロールシステム(YHS-CO5B,YKS)とエアーコンプレッサー(SLP-22CO,YKS)及び大型ビニール製のアイソレーターを用いて作製し、酸素濃度は16.0±0.1%とした。室内温度は24±1℃であった。運動はアイソレーターの中にランニングホール(一周は1.16m)付のラットケージを入れ、いつでも運動できるようにした。食餌と飲み水は自由摂取とした。全てのラットはエーテル麻酔を行った後、肝臓、心臓、脳、横隔膜、副腎、ヒラメ筋、ヒフク筋を採取した。脳はさらに前頭葉、小脳、線状体、海馬に分類した。肝臓と脳は組織の中で酸化ストレスに対してダメージを受けやすい臓器であることが知られている。本研究で測定した8-OHdG (8-hydroxydeoxgeanosine)はDNA損傷の指標として認められている。DNA損傷は酸化ストレスによって誘導されるが、還元型グルタチオン(GSH)は細胞内で最も多くのチオール基を保持していることから活性酸素の除去に大きな貢献をしている。<結果と結論>HEとHS群の肝臓8-OHdG濃度はNS群に比べて有意に減少した。HE群のGSH濃度はHS群に比べ有意に増大した。これらの結果から、低酸素環境での運動トレーニングは肝臓のDNA損傷を軽減させることが明らかになった。これは低酸素運動トレーニングが抗酸化能力を改善させた結果によるものと考えられる。神経伝達物質であるノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミンは全脳においてHE群で最も低く、次にHS群が高く、NS群は最も高い値であった。HE群において、ノルエピネフリンは前頭葉、エピネフリンは小脳、ドーパミンは線状体で著しい低下が認められた。これらの結果から低酸素と運動刺激は全脳でのノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン濃度を有意に低下させるが、脳の部位によってそれらの影響は異なることが明らかとなった。さらに低酸素及び運動トレーニングが脳以外の臓器・組織でのノルエピネフリン濃度に及ぼす影響を観察した。HEとHS群の肝臓のノルエピネフリン濃度はNS群に比べ有意に低下し、NS群の心臓のノルエピネフリン濃度はHEとHS群より有意に低値を示した。横隔膜とヒラメ筋のノルエピネフリン濃度は3群間に有意な差は認められなかった。これらの結果から長期間にわたる低酸素環境での運動トレーニングがノルエピネフリンに及ぼす影響は臓器・組織によって異なることが明らかとなった。
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