本研究は、安全かつ効率的なストレス負荷で筋力増大をもたらす新しいトレーニング法を開発することを目的に、熱ストレス負荷による骨格筋肥大促進機構をもたらす至適刺激時間について、尾部懸垂により萎縮したラットヒラメ筋を用い、筋肥大時の細胞内シグナル伝達経路として知られているAkt/S6経路ならびにカルシニューリンとの関連から検討した。得られた結果は、以下の通りである。 1.Conを除く各群で、解除10日までの体重、筋重量に有意差は認められなかったが、解除10日の相対筋重量において、尾部懸垂のみの群(Sus)および温熱刺激15分(H15)では回復が認められたが、温熱刺激30分(H30)では認められなかった。 2.筋原線維タンパク質量は、解除直後にConを除く各群で有意差は認められなかったが、解除3日において、H15はSus、H30よりも有意に高い値を示した。また、解除10日では、H30のみが、Conよりも有意に低い値であったのに対し、SusとH15、は、Conに比べ低い傾向にあるものの有意差は認められなかった。 3.解除各日において、筋水分比に有意な差は認められなかった。 4.リン酸化PKBは、直後ではConに比べ各群ともに有意な低値を示したが、3日後にはConの値と同じレベルにあった。 5.解除直後のH15のリン酸化mTORは、他の群に比べ有意に高い値を示したが、その後の回復期では各群間に有意差は認められなかった。 6.3日後のリン酸化S6は、Conに比べいずれも有意に高く、特にH15は最も高値を示した。また、直後の同一群よりも有意に高い値を示した。 7.リン酸化p70 S^6^Kとカルシニューリンは、いずれにおいても有意な変化は認められなかった。 以上のことより、萎縮筋の回復において温熱刺激が、筋タンパク質の合成を促進すること、またそれには至的刺激時間が存在することが示唆された。
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