本研究の目的は、脊髄損傷者を対象に上肢筋力トレーニングを実施し、それが麻痺した下肢の筋系と末梢循環系の機能と構造に如何なる影響を及ぼすかについて明らかにすることである。 今年度は、上記の目的に先だって、脊髄損傷者を含む下肢の機能に障害を持ち、特定のスポーツ活動に参加する障害者スポーツ選手(車椅子バスケットボール選手、アイススレッジホッケー選手、チェアスキー選手など)を対象に、上肢の筋機能および呼吸循環機能がどのような特徴を示すのかを調査するために障害者スポーツ選手の身体的特性を測定した。さらに、健常者のスポーツ選手に対しても同様の測定を行ない障害者スポーツ選手との比較を行なった。 今年度の研究の結果から、これまでに報告されているように障害者スポーツ選手の上肢の筋機能および呼吸循環機能に関しては、健常者を上回る傾向にあることが確認された。つまり、下肢に障害を有するスポーツ選手では、上肢の周径囲、最大筋力および筋持久力ともに健常者より優れており、さらに腕エルゴメータを用いて測定した最大酸素摂取量も健常者を上回る結果が得られた。 これは、スポーツ種目の特性以外に健常者と障害者の日常生活における上肢の活動量の違いによるものが大きいといえるだろう。そのため、健常者、障害者ともに特定のスポーツ活動を行なっている者同士の比較においては、上肢と下肢の筋系および末梢循環系に及ぼすトレーニングの効果を十分に解明することは困難であると予想される。 したがって、障害者と健常者に対して、トレーニング条件を同一に規定した上肢への筋力トレーニングを課し、それが上肢はもとより、下肢の筋系および末梢循環系の機能と構造にどのような影響を及ぼすかを明らかにする必要がある。
|